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そよ風が運ぶ快適空間

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神奈川県秦野市

子供たちの声が響く末広小学校の体育館。外気温が30度を超える中、館内には心地よい冷気が。バスケットゴールの裏に吊り下げられているのは、7月から試験的に稼働している、冷・暖房が可能な空調設備だ。市は、全ての小・中学校への導入も見据え、来年3月まで空調の効果や運用にかかる費用を検証している。


1 吹き出し口は、ボールが当たっても壊れない布製。吊り下げるだけなので、大規模な工事を必要とせず、短い工期かつ低負担で導入が可能

2 サーモグラフィーで計測すると、子供たちのいる空間が青色(適温)に

3 運動をする子供たち。温度のストレスがなく、活動に集中できる

■体育館に空調を
まるでサウナのような暑さ。真夏の体育館にそんなイメージを持つ人もいるのではないだろうか。7~9月に市内で発出された熱中症警戒アラートの回数は、令和4年が10回、5年が26回、6年が37回と増加し続け、夏の過酷さは増すばかり。今年6月の国内の平均気温が観測史上最高を記録するなど、学校体育館への空調設備の設置が全国的に求められている。文部科学省が設置費用の補助を拡充しているが、断熱材の施工も必要になるなど、膨大な金額がかかることもあり、県内小・中学校の設置率は10%程度。市内でも導入できていなかったのが現状だ。
「屋根が広くて窓も多い体育館は、日射量が多く、暑くなりやすいんですよ」。そう語るのは、菩提地区に工場を構える新晃工業(株)の宮村事業部長。令和5年に本市と締結した災害協定の一環として、空調設備の実証事業に名乗り出た。同社の工場や事業所がある全国の自治体の中で、本市が体育館の環境改善に積極的なことも決め手だったという。

■学校活動に寄り添う空調
体育館で見かける大型扇風機は、涼しくなっても効果が局所的。末広小学校でも熱中症の危険性が高いと、より安全な別教室での授業に切り替えていた。体育を楽しみにしている子供も多く、「入った瞬間、涼しい。今年は体育館をたくさん使えてうれしい」との声が。安心して運動ができると、教職員からの評判も上々だ。
今回設置した空調設備の強みは、温度調節だけではない。宮村事業部長は、「余計な気流を出さずに、そよ風のような柔らかい風を送り込めるんです」と力を込める。スポットクーラーや大型扇風機のような強い風が発生せず、バドミントンや卓球などの繊細な競技にも影響しないという。空調機本体が屋外にあるため、館内のスペースを奪わず、騒音が少ないことも特長だ。末広小学校の吉田正也校長は、参加人数の多いイベントや研修会などを、夏場でも実施できると期待を寄せる。

■過ごしやすい避難所に
地震が発生した際、高齢者や小さい子供を含む、たくさんの避難者が利用する体育館。末広小学校で検証を実施するのも、想定避難者数が他の学校より多いことが理由の一つだ。夏の暑さだけでなく、冬の寒さも厳しい避難所生活。天井の高い体育館は、暖気が上昇して冷気が底にたまってしまい保温性能が低い。宮村事業部長は、「今回の空調は、まんべんなく送風できるので、館内全体を温められます」と自信をのぞかせる。冬場の寒さ対策にも抜け目がない。
人が密集する館内では、熱中症や低体温症だけでなく、感染症の拡大を防ぐ必要も。「感染を防止するには、換気がとても重要です」と宮村事業部長。避難所として利用する際は、通常時よりも強力な換気機能が作動し、窓を開けることなく空気の入れ替えができるため、避難者を夏の熱風や冬の冷気にさらさずに済む。
本市で、特に切迫性が高く、多くの被害が懸念される都心南部直下地震。市では、衛生用品や給水タンク、簡易ベッドなどを確保し、万が一の事態に備えている。移動式の冷・暖房機や換気用のサーキュレーターは、一定範囲のケアができるが、館内全体は難しい。吉田校長は、「館内の暑さと寒さを体感しているからこそ、より充実した避難者への配慮が必要だと感じています」と話す。空調設備は、体育館の避難所としての機能を、さらに向上させる大きな要になるはずだ。
「秦野市を皮切りに、全国へ取り組みが広がれば」と将来を見据える宮村事業部長。子供たちや先生、避難者がより快適に利用できるよう、今後も改良が進められる方針だ。
空調設備の検証は始まったばかり。いつでも誰にとっても居心地の良い体育館を目指して、市は大きな一歩を踏み出した。


◎新晃工業(株) ヒートポンプ
エンジニアリング事業部
宮村浩史事業部長(52)

■今回の空調設備以外の対策も
発災時、災害協定に基づいて、新晃工業(株)から供給される空調機と発電機を搭載したトラック。市は、停電時にも避難所の温度管理ができるよう備えている。

◎1台で完結するため、迅速な展開が可能

問い合わせ:教育総務課
【電話】84-2783

       

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