関東大震災の復興作物として、大正14(1925)年に県内で生産が始まった足柄茶。市内には、先人たちから受け継いできた茶畑で、自然の恵みをたっぷり受けて育つ茶の栽培に励む農家たちがいる。
■丹沢が育む銘茶
「芽が出てくると私の元気も湧き出てくるんだよ」。意気揚々と新茶を収穫するのは、山口勇さん(菩提・67歳)だ。標高約300メートルの場所に位置する緑茶工房わさびや茶園の園主として「やぶきた」や「みなみさやか」など8品種を栽培。裏山にある、わさび沢の湧水で茶葉を蒸し販売もしている。
足柄茶の栽培は県の産業復興策に位置付けられ、県西部を中心に生産が拡大したという。丹沢の麓に位置する本市は、斜面地で水はけがよく、昼夜の寒暖差が大きい。特に山間部では水蒸気が霧となり、養分を蓄えやすいことから、茶作りにうってつけの産地として栽培が受け継がれている。
これまで味や香り、見た目が高い評価を受けてきた市内の茶作り。山口さんも、遮光シートをかぶせ旨味成分を増やす工夫をするなど、着実に技術を磨いてきた。丹精込めて育てた茶は、農林水産大臣賞を受賞するなど、数々の実績を残している。
先月1日、地元の食材に親しんでもらおうと、市内中学校の給食では、山口さんが作った茶を衣に混ぜて揚げた「ちくわのお茶揚げ」が提供された。香り高い味わいは、生徒たちにも好評。「地元のお茶への興味が湧いたかな」とほほ笑む。
しかし、市内の茶農家は高齢化などにより減少。昭和47(1972)年には約60人いた茶農家が、今では半分ほどに。栽培面積も減少傾向にある。
こうした課題に対し、JAはだの果樹部会茶業部の部長も務める山口さんは、茶業を始めたいと思っている人を研修生として受け入れるなど、後継者の育成にも力を注ぐ。「農業は毎年の積み重ねが大切。未来へこの風景をつなぐために、地道に作業を続けていきたいね」。そう語る視線の先には、秦野盆地の街並みを背景に雄大な茶畑が広がっている。