記録的猛暑が続く近年の夏。4月から、従来の「熱中症警戒アラート」より一段上の「熱中症特別警戒アラート」を設置するなど、国の対応からも事の重大さが伝わってくる。命を守るために、私たちは何ができるのか。熱中症に精通する専門家に聞いた。
◎大塚製薬(株)首都圏第二支店
ソーシャルヘルス・リレーション担当
井口友里課長(38歳)
●現状を知る
「状況はとても深刻です」。市と包括連携協定を結び、熱中症対策の普及・啓発を行う大塚製薬(株)の井口課長は、年々増す暑さの危険性を訴える。環境省は、気温が28度を超えると熱中症のリスクが高まるとしているが、近年、40度に迫る「体温超えの日」が度々各地を襲っていることは、周知の事実だ。秦野市でも、昨年の7月と8月だけで計25回の熱中症警戒アラートが出されるなど、記録的な猛暑となった。「毎年リスクは高まるばかりです」と警鐘を鳴らす。
同じく昨年の傾向として、市内の熱中症搬送者数を見ると、一昨年に比べ屋内で発症した熱中症患者が増えていることが分かる。「高齢者は暑さを感じにくくなるので、特に注意が必要です」と井口課長。窓を開けても熱風が入ってくるような近年の暑さでは、エアコンの使用をためらってはいけないという。
◎市内の熱中症搬送者数(疑い含む)
(調査期間:5月1日~9月30日)
●未然に防ぐ
本格的な猛暑を迎える前に、今からできることをやっておきたいところ。井口課長は三つの予防法を提案する。
◇予防法(1)「暑熱順化」
熱中症の主な要因は、体に熱がこもること。うまく汗をかけないと、暑さに見合った放熱量が得られないという。日頃から無理のない範囲のウオーキングなどで徐々に暑さに体を慣らすことが重要。身近なところでは、しっかりと湯船に漬かって汗をかくことでも効果は得られるそうだ。「暑くなってきても、シャワーで済ませないことがポイントですよ」
◇予防法(2)「水分補給」
汗の重要性は前述のとおり。しかし、体内の水分が不足しては、十分な汗はかけない。頻繁に耳にする「小まめな水分補給を」という言葉にも、「『まだ足りない』くらいの意識で」と呼び掛ける。目安は食事を含めて1日8回。食べ物からも水分は取れるので、しっかり1日3食取ることも重要だという。
◇予防法(3)「身体冷却」
「暑いものは冷やす」というのは言うに及ばず。「体の内と外、両側から冷やしてください」と井口課長は提案する。エアコンや冷水浴、アイスパックなどを使って皮膚の温度を下げる「外部冷却」と、冷水や氷状の飲料を飲み体内の温度を下げる「内部冷却」を併せて使うことが効果的だという。
●賢く、涼しく
熱中症になったとき、症状の深刻さを見極めるポイントは、意識障害の有無。言動がおかしいと感じたら、最も重い「熱射病」が疑われる。救急車を呼びつつ、その場でできるあらゆる方法で体を冷やすことが必要だという。「極端ではありますが、全身を氷水に浸すのが、最も早く体温が下がり、救命率が上がる手段です」
しかし、最悪のケースは避けたいところ。そうならないよう、市と連携しながら、井口課長たちは、正しい知識を持って市民に声掛けができる「熱中症対策アンバサダー(R)」を育成している。井口課長は「熱中症予防協力施設があるのが秦野の強み。施設の方々は身近なアンバサダーです」と話す。「水分は足りているか」、「具合は悪くないか」という不安は、自分の感覚だけに頼らず周りに相談し、〝クールな夏〟を過ごしてほしい。
◎令和3年に「健康増進に関する包括連携協定」を締結