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高さ約8メートル。見ているだけで足がすくみそうなはしごの上で、八重桜の花が次々と摘み取られていく。全国有数の食用八重桜の産地である市内千村地区の春の風物詩だ。桜花農家の小野孝允さん(78歳・千村)は、50年以上摘み取りをしているベテラン。手際よく作業し、あっという間にかごの中が花でいっぱいになった。
摘み取りは、時間との闘い。開花したら、散り始める前に手作業で摘み取る。「作業期間が短いから、なかなか若い人が経験を積むことができなくて」と話す通り、近年は後継者不足が悩みとなっている。また、高所での作業は、危険も伴う。はしごを掛ける枝選びだけでも、経験がものをいう作業。高齢化による人手不足は深刻だ。
そんな地域の伝統を守りたいと立ち上がったのが、渋沢小・中学校区の子供たち。昨年、渋沢小学校の5年生が地元の特産品である八重桜の歴史や現状を学んだ成果を発表した「八重桜祭り」を、今年はこども園と中学校にも拡大し、八重桜に関するレポートや絵画の展示などを行った。八重桜を食べられるということを知らなかったという児童も、「全国に誇れる地域の伝統と、それが途絶えてしまうかもしれないということを、たくさんの人に知ってほしいです」と力を込める。
小野さんは、「見るのはもちろん、食べても楽しめるのが秦野の八重桜のいいところ」とほほ笑む。今年はぜひ、花の見頃が終わった後も、桜の塩漬けで春の味と香りを感じてほしい。