■森を守る人たち
今大会、さまざまな催しに使われ、注目を集める秦野産の木材。使うのも人ならば、守り育てるのも人だ。匠の手に届くまでには、森を守る林業者たちの強い思いと努力がある。
◯「水も空気も作っているのは森。この森を後世に残さなくちゃ」
◎市森林組合
坂東浩二さん(48歳)
「ヴィィィィィン―」。静かな森の中に甲高いエンジン音が鳴り響く。チェーンソーを担ぎ、無数に並ぶ木々の間から顔を出したのは、市森林組合の坂東さん。森林組合とは、山の所有者たちが出資し合って組織された団体。同組合は、市内にある森林を所有者に代わって手入れしてきた。
山から切り出した丸太の搬出量は県内でトップレベル。昨年度に県内で搬出された丸太約3万立方メートルのうち、約5千立方メートルは同組合からのものだという。彼らがここ10年間で整備したのは市内の山林のうち約485ヘクタール、東京ドーム103個分の面積。広大だが、人の手で植えられた森は、人が手入れしなければ荒廃してしまう。「切ったら植える。これを当たり前にやることが大切なんです」。適齢期を迎えた木は伐採が必要。森林を守っていくためには、「切る―使う―植える―育てる」のサイクルが不可欠だと説明する。木を使うことで、木の伐採が進み、森の手入れが進む。山の健康状態が保たれていれば、雨水が土にゆっくりと染み込み、ろ過されることで秦野のおいしい水が作られるという。林業は私たちの暮らしに密接に関わっていると言える。
「切ったら植える」を続けていくためには、新たな苗木が必要になってくる。そこで、市森林組合が2年前から取り組んでいるのが、スギやヒノキの苗木作りだ。育てているのは、花粉が少ない品種や出ない品種。「苗木の時から秦野で育ったものは、秦野の風土に合うんですよ」とほほ笑む坂東さん。この土地で育った苗木が将来、木材として地元で活用されることを願い、一苗ずつ丁寧に生育状況を見て回る。
しかし、森林整備を続けていく上では課題も。「山から切り出した木のうち、建築用の木材になるのは3割だけなんです」。その他の7割は規格外となり、薪(まき)やウッドチップ以外にはほとんど使われてこなかったという。このような、建築材にならなかった木も残さず資源として活用できるよう、組合では令和3年に簡易製材機を導入。これまで市場に出回らなかった木を、丸太の状態から製材加工できるようにした。「地元の木材を活用しようとしている事業者や、日曜大工などで使いたい人に提供できるようになりました」。さらに、昨年から始めたのが、「木の紙」。薄く加工した2枚の木の間に和紙を挟んで作られる。木目に沿って曲げても木が割れることはなく、プリンターで印字もできる優れ物だ。来春には、市内の中学校で卒業証書に使われる予定。坂東さんたちも、手にしたときの生徒たちの表情が楽しみだという。「木って人の手に届いて使われて、やっと価値が出てくるんですよね」。組合では、燃料として燃やすだけでなく、木材として形を残せるよう、今もなお新たな活用方法を模索している。
大会へは、アトラクションとして実演される「やり鉋」や「ハツリ」で使う木材を提供する市森林組合。「もっと多くの人に使ってほしい」と願いを込め、会場へ送り出す。足掛かりとなるのは、まず森や木に興味を持ってもらうこと。その機会となるのが、今大会だという。「素晴らしい技術を通して、木材の魅力を感じてもらえたらうれしいですね」。坂東さんたちは、これを機に一人でも多くの人たちが、〝林業のサイクルの入り口〟に立つことを願っている。
◎Photo
(1)育て始めてから2年たった苗木はポットへ。生育状況を小まめに確認
(2)伐採した場所に植えた苗木。生育の妨げになる雑草などは刈り取るんだそう
(3)伐採した丸太は十分に乾燥させてから出荷
(4)木の紙は名刺や名札にも使われる
(5)高性能な機械の導入で作業の負担を軽減
※写真は広報紙3ページをご覧ください。
問い合わせ:
・産業振興課
【電話】82-9646
・森林ふれあい課
【電話】82-9631