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〈特集〉千羽鶴に込める平和への思い

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神奈川県秦野市

「平和の象徴」として、毎年広島市へ送り届けられる千羽鶴。色とりどりの折り鶴は、市民の手によって作られる。一羽一羽に込められた作り手の思いに触れて、平和とは何か、今一度考えてみては。

■「自分事」の平和学習

笑顔で和気あいあいと鶴を折る児童たち。教室内に、「こんなにたくさん折ったよ」と自慢げな声が響き渡る。北小学校の3年4組ではこの夏、授業に千羽鶴の制作が取り入れられた。担任の芝先生は「作った物が実際に広島に届くことで、子供たちにとっても他人事ではなくなると思ったんです」と、その理由を説明する。もともと平和学習への関心は高かったが、国語などの授業で扱う教材には、戦争や平和について考えるだけで終わってしまうものが多いことに、もどかしさを感じていたという。何か行動に移したいと思っていた頃に見つけたのが、「広報はだの」に載っていた千羽鶴の募集記事だった。「きっかけが欲しかったので、『これだ』と思いました」と当時を振り返る。
「総合的な学習の時間」を使って千羽鶴を作るようになって3年目。芝先生の授業は、広島で被爆した10年後に白血病と診断され、12歳の若さで亡くなった佐々木禎子さんの話から始まる。同年代の禎子さんに共感し涙を浮かべる児童もいたそうで、理解が深まっている手応えを感じたという。「興味を持って、自分で調べながら少しずつ知っていくことで、折り鶴にも何かしらの思いがこもる気がするんです」

■小さな世界の「平和」
平和学習の上で重要なのは、「触れる機会」だと語る。市では、終戦記念日の8月15日を「秦野市平和の日」と定め数多くの事業を行っている。「学びを深めることができる機会がたくさんあるのって、市の財産ですね」。千羽鶴の制作を通した平和学習は1カ月で終わってしまうが、図書館前の「平和の森」や市役所正面玄関前の「平和の灯(ともしび)」に足を運ぶような課外活動も視野に入れているんだとか。「『あ、平和の先生だ』なんて言われるように、自分の教育活動の一つにしていこうと思っています」
さまざまな展開を期待させる平和学習の中でも、千羽鶴の制作に力を入れるのには、もう一つの狙いがある。「絆が深まるというか、クラスが平和な雰囲気になっていくんです」。誰か1人が「折り方が難しい」と言うと、周りの児童が教え、自然と優しい会話や関係性が生まれてくる。いじめなんて感じさせない空間を広げていくのが、目的だという。「クラスという小さな世界の中での『平和』ですよね」。身近な平和から輪を広げようと試行錯誤する芝先生のクラスは、今日も和やかな笑顔で包まれている。

1 児童たちが作った折り鶴。初めは苦手だった子も角のそろったきれいなものが折れるように
2 6月中旬から作業を進める児童たち。わずか半月ほどで1000羽を折り上げた
3 完成品は文化振興課の職員へ手渡された
※詳細は広報紙2ページの写真をご覧ください。

■被爆地と人生

「やっぱり、原爆も戦争も駄目だよ」。鶴を折りながら静かに話すのは、令和2年から毎年、3000羽以上の折り鶴を市に届けている横溝芳夫さんだ。原爆の存在を初めて知ったのは、戦後10年も経っていない小学生の頃。爆心地の広島を描いたパネルが全国を巡り、本町小学校にも展示された。南小学校に通っていた横溝さんも足を運んだという。「無意識に『怖い』という言葉が出ましたね」
40年ほど勤めた旅行会社では、若手時代に添乗員を経験。広島や長崎に10回以上訪問し、平和という言葉に関心を持ち続けてきた。広島への修学旅行に添乗した時には、平和記念資料館の中に同行したことも。「こんなにひどいことがあったんだと、胸が締めつけられましたよ」と、瞳に焼き付いた数々の展示を思い起こす。
その後は添乗の仕事から離れたが、退職直前に、プライベートで広島平和記念公園を訪問。添乗の時よりもじっくりと見学して感じた思いが、今の折り鶴にも込められている。

■自由と平和
愛犬の死をきっかけに作り始めたという折り鶴。作り続けるうちに、鶴に込める思いはかつて訪れた広島、そして世界へと広がっていった。今年市に届けた千羽鶴の中には、鮮やかな青と黄色で彩られたものがある。ロシアによるウクライナ侵攻から約1年半となる今年5月、広島でG7サミットが開かれ、ゼレンスキー大統領が平和記念公園を訪れた。戦争という言葉に注目が集まる中、横溝さんも戦地に思いをはせる。「戦後の日本を見てきた世代としては、居たたまれないですね」と目を伏せる。
自らを「戦中派」と呼ぶ横溝さんは、終戦の1年前に市内で生まれた。終戦後しばらくは、「お金をください、食べ物をください」と、農家を訪ねる傷病兵をよく見たそうだ。「ウクライナでも同じようなことが起きるかもしれないと思うと、何かしたくてね。直接できることは少ないけど、気持ちだけでも千羽鶴に込めたんです」
ウクライナの人々も、侵攻の直前までは普通の日常を過ごしていたはず。横溝さんは、今の日本も同じだと語る。「平和が当たり前になってしまっていますね。でも、だからこそ、この日常が貴重だとも言えます」。千羽鶴に下げた短冊には、「自由」という言葉が刻まれている。平和の尊さを知るために、まずはこの夏の「平和の日事業」に参加し、自由な時間をかみしめてみてほしい。

1 ウクライナの国旗の色をイメージした千羽鶴。短冊には「平和で明るく自由な世の中」という願いが
2 自宅の至るところに千羽鶴が愛犬たちの写真と共に飾られている
3 平成18年、夫婦で広島へ。生で見る原爆ドームに心打たれたという
※詳細は広報紙2ページの写真をご覧ください。

◆みんなの願いを被爆地へ 親子ひろしま訪問団
小学4年~中学生の親子が、8月6日の「広島原爆の日」に合わせて原爆被災地・広島を訪問し、原爆や戦争の悲惨さ、命の尊さを学ぶ事業。戦後50年を迎えた平成7年にスタートし、昨年までに248人の親子が参加した。
今年は集まった6万5000羽の千羽鶴を託され、平和記念公園内の「原爆の子の像」にささげる。

問い合わせ:文化振興課
【電話】86-6309

       

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