明治から昭和にかけて活躍し、短歌界だけでなく、文学界にも影響を与えた前田夕暮。上京後もふるさと秦野の歌を詠み続けた夕暮の思いと、現代に受け継がれる短歌の魅力を、夕暮の短歌からひもとく。
◎プロフィール
明治16年7月大住郡南矢名村(現在の秦野市南矢名)生まれ。若山牧水と共に自然主義の代表歌人として注目され、「夕暮・牧水時代」と称された。短歌雑誌「詩歌」を毎月発行し、斎藤茂吉や萩原朔太郎、高村光太郎などの歌人や詩人に活躍の場を与えるなど、多くの歌人の育成に貢献。北原白秋と雑誌「日光」の刊行に尽力し、多くの口語短歌や散文を発表した。
■向日葵は金の油を身にあびて
ゆらりと高し日のちひささよ
大正2年に西洋美術展覧会で見た、ゴッホの絵に感銘を受けて詠んだ一首。この時期の夕暮は、ゴーギャンやムンクなどの西洋絵画に影響を受けた作品を作っていたという。
「新しいものを先取りして自分の物にする、その柔軟さが魅力ですね」と話すのは、鶴見大学名誉教授で長年にわたり前田夕暮について研究している山田吉郎さん(69歳・東田原)。「自然主義や口語自由律の歌人と称されますが、それだけではありません。作風を5回も転換するなど、時代の潮流をいち早く取り入れている歌人だったんです」と熱く語る。
文学の研究テーマを探している時に、同じ秦野出身である夕暮を知り興味を持ったという山田さん。「新鮮で鋭敏な感覚を持っている
ところや、文学や芸術の時代を自らの短歌に生かしているところが、夕暮の面白いところです」と力を込める。
市内11カ所にある歌碑など記念碑の場所は図書館ホームページへ
【HP】https://library-hadano.jp/yugure/
(1)前田夕暮の生家の跡地(南矢名2134番地)に建つ記念碑。子供の頃は、家の裏手の弘法山に毎日登っていたという
(2)6月に鶴巻中学校で実施した出前講座。歌人で歌誌「りとむ」編集委員の寺尾登志子さん(跡見学園女子大学講師)が、日常の出来事などを題材にした短歌の作り方をレクチャーする
※詳細は広報紙2ページをご覧ください。
■自然がずんずん体の中を通過する
――山、山、山
五・七・五・七・七の形式にとらわれない自由律短歌として知られ、飛行機に乗って故郷にそびえる丹沢の上空を飛んだ時の体験を詠んだ一首。
21歳で上京した夕暮は、その後も頻繁に秦野を訪れていた。地元南矢名の伝統行事である瓜生野百八松明や鶴巻温泉など、故郷のことを詠んだ歌が数多く残っている。「ふるさとである秦野へのノスタルジーが伝わってきますね」
東京で暮らしながらも、抱き続けた望郷の念。夕暮の思いが伸びやかに表現されていると山田さんは話す。
■まなかひに朝の富士あり天雲を
つらぬきて赤くそびえたるかも
生前、母校である県立秦野高校の生徒から、秦野に建てる歌碑のための歌を依頼され、夕暮自身が選んだといわれる一首。同校には現在もこの歌の歌碑があり、短歌の心を生徒に伝えている。
後進の育成とともに、どうすれば短歌を次代に伝えることができるかを考えていた夕暮。その思いを継ぐように、市では「夕暮記念こども短歌大会」を昭和62年から実施している。
昨年、中学生の部で市長賞に輝いた坂岡愛莉さんは、「パッと思い浮かんだものをそのまま歌にできる気軽さがいいですね」と短歌の自由さを魅力に挙げる。「自分の感じたことをそのまま表現できるところが好きです」と話すのは、小学生の部で市長賞に輝いた飯吉祐仁さんだ。短歌を作るようになったのは、小学5年生の頃。「日常のささいな出来事や四季の移り変わりなど、見て感じたことを短歌にしています」と思いを語る。
近年は、若者を中心にSNSなどで広がる短歌ブーム。「大人が詠むもの、素養がなければ難しいもの、といったイメージは過去のものです」と、歌人でもある山田さんはこうした流行を歓迎する。「全年齢を対象とした『夕暮祭短歌大会』で、高校生が入賞することもあります。まずはぜひ、気軽に一首作ってみてください」
短歌を愛し、新時代を模索し続けた夕暮。生涯を通じて短歌に懸けたその思いは、着実に次代を担う子供たちに受け継がれているだろう。
◆参加者募集
◯前田夕暮生誕140周年記念講演
とき・内容:
(1)9月2日(土) 午後1時半~3時 夕暮講座「夕暮と山頭火短歌と俳句の交流」
(2)10月15日(日) 午後2時~3時 ギャラリートーク「歌人の空への憧れ」
(3)11月5日(日) 午後2時~3時半 古典の日・文学講演会「夕暮と万葉集」(仮)
(4)12月10日(日) 午後2時~3時 ギャラリートーク「前田夕暮と島木赤彦」
講師:山田吉郎氏((3)は寺尾登志子氏)
ところ:図書館
定員:
・(1)(3)60人
・(2)(4)30人
※いずれも申し込み先着順
◯夕暮祭短歌大会表彰式・トークショー
寄せられた1753首の作品のうち、優秀作品の26首を表彰します。
とき:7月29日(土)午後1時半~3時半
ところ:クアーズテック秦野CH
内容:山田吉郎氏、寺尾登志子氏、古谷円氏によるトークショー「夕暮を語る」
定員:100人(申し込み:先着順)
◆作品募集
◯夕暮記念こども短歌大会
対象:市内在住または在学の小学4年~中学生
テーマ:自由
応募方法:応募用紙(学校、図書館にあります)を学校に提出
※市外在学の方は、はがきに、短歌、住所、氏名(ふりがな)、学校名、学年、電話番号を書き、9月8日(金)までに〒257-0015平沢94-1図書館「こども短歌」係へ郵送。【メール】tosyo@city.hadano.kanagawa.jpも可
問い合わせ:図書館
【電話】81-7012
問い合わせ:図書館
【電話】81-7012