水墨画を私たちにも身近なアートにぐっと引き寄せる長嶋芙蓉さんと、飾らないセリフと共に綴(つづ)られるストーリーを色彩豊かな漫画で表現する谷口菜津子さん。市内で生まれ育った2人の画家が、「画」を通して描き出す世界を紹介する。
■水墨画家 長嶋芙蓉さん(曽屋出身)
[Profile]
本町小・中学校卒業。平成27年に水墨画家に師事。関東を中心に水墨画パフォーマンスを開催する中、令和元年には「災害」をテーマにした作品「SON」で復興大臣賞を受賞する。「雪肌精みやび」の広告を手掛けるなど、活躍の場を広げている。
▽人の感情が動く画を
水と墨の濃淡を巧みに使って描かれる水墨画。高尚な雰囲気に、敷居が高いと感じる人も少なくないのでは。「書道が苦手だったという人に、ぜひお勧めしたいですね」と笑顔で話すのは、水墨画家の長嶋芙蓉さんだ。
墨と筆との出会いは小学校低学年のとき。祖母の勧めで書道を習い始めた。今では師範資格を持つ腕前だが、「ルールが多くて苦手でした」と苦笑する。筆を寝かせて描いたり、淡い墨と濃い墨を混ぜてにじみを加えたりといった自由さが、水墨画の魅力と目を輝かせる。
デザイナーとして就職後、美術モデルの仕事をしていたときに仕事先で出会ったのが、今の水墨画の先生だった。当時祖母の看病で秦野の実家で暮らしていたため、手紙を通じて交流を深めた。その後、祖母を看取った時期に、教室に参加しないかと偶然声を掛けられ、それが水墨画の世界に入るきっかけとなった。「迷いはなかったですね。大好きだった祖母が、人生の道筋を示してくれたような感じがしてます」と振り返る。
創作する上で大切にしているのは、物が持つ生命力やその場にあるエネルギーのような、目には見えないけれど存在しているものを表現すること。古典的な水墨画のイメージとは異なる、抽象絵画のような作品も多い。「言葉にできない自分の思いを伝える最適な方法が、私には水墨画だったんです」
▽水墨画を身近なアートに
個展や水墨画パフォーマンスを開催する一方で、小学校での教室やオンラインでの授業など、裾野を広げる活動も積極的に行っている。目標は、「難しそうなイメージを変える」こと。「家にある筆ペンだっていいんです」と笑う。取材中、さらさらと手を動かしながらあっという間に表紙のウサギの絵を仕上げていく。筆遣いに感心していると、「広報を読む市民の皆さんに描いてもらうなんてどうですか」と長嶋さんがポツリ。下絵用の水墨画をその場で提供してくれた。「なぞって描くだけなら簡単なので、気軽に楽しんでほしいな」
実家を離れた今も、生まれ育った秦野への思いは強い。「ウサギの絵にあるサザンカは、実家の庭の花なんですよ」。長嶋さんが生まれた年に、市でもらった記念樹を植えたものだという。サザンカの花を見掛けると、秦野のことを思い出して温かい気持ちになるんだとか。「水墨画を通して、秦野の皆さんと交流していきたいですね」とこれからの活動に期待を寄せる。
「最初からできないと思わずに、まずはやってみて」と自身の経験からエールを送る長嶋さん。背中を押された先には、きっと楽しい水墨画の世界が待っている。
(1)平成29年の第47回市美術協会展新人賞を受賞した作品「生命力」。水墨画を始めて間もない頃に描く。実家の庭にある木の生命力を表現した
(2)復興大臣賞の受賞作品「SON」。全国での度重なる災害に影響を受けて、作品を描き始めた。声にできない心のつらさの解放などを描く
◎書き初めにぜひ
筆ペンや習字セットでウサギの水墨画を描いてみよう
下絵のダウンロードは市ホームページへ
【HP】https://www.city.hadano.kanagawa.jp/www/contents/1671177586224/index.html